【エピソード8】パリ2024パラリンピック出場内定!自身の生き方への“お誘い”を記した著書も発表

【エピソード8】パリ2024パラリンピック出場内定!自身の生き方への“お誘い”を記した著書も発表

2024年3月11日、木村敬一選手はパリ2024パラリンピック(以下、パリ2024)への出場が内定した。課題となっているフォーム改善はその道のりの途中だが、着実に歩みを進めている。そんな中で自身2冊目となる著書が完成した。タイトルは「壁を超えるマインドセット」。全編に木村選手のマインドが炸裂して、軽快な言葉たちを通して木村選手の頭の中を覗き込める内容となっている。

“木村敬一”という人間を形成する考え方を記した一冊

前作の『闇を泳ぐ』では、自身の半生を振り返って、いろいろな人との思い出やエピソードをまとめました。発売されたのは東京2020大会の少し前だったのですが、金メダルを獲った後はかなり反響がありました。
この本の内容はすべて事実なのですが、フィクションで作られた小説の世界に入ったような気持ちで読んでほしいと思って書きました。

そして、2冊目となる今度の『壁を超えるマインドセット』は、生きているなかで感じたことや自分が発した言葉を思い出しながら、関連するエピソードとともにランダムにまとめました。
単に思い出を書き綴るのではなく、そのとき、どのような心情や考えがあって行動していたのか、自身の心の動きや感情のコントロールの様子にたくさん触れています。
例えるならば、前著は“小説”、本著はそんな自分自身への“お誘い”と思っています。
『闇を泳ぐ』では時期的にあまり書けていなかった東京2020パラリンピックのことも今回の本に記しました。

パラスポーツを盛り上げる一助となれば……

『壁を超えるマインドセット』をパリ2024の開催前に出版することにしたのは、ちょっとした賭けでした。自国開催(東京2020パラリンピック)が終わってしまい、「パラスポーツの盛り上がりを最大限にプッシュできる切り札は使い果たしてしまった」という感覚があったんです。そこで、パリ2024パラリンピックに向けて再びパラスポーツを盛り上げるためにはいろいろと仕掛けていかねばと思い、勝負に出ました。結果、無事にパリ2024パラリンピック内定とともに出版の発表ができて安堵しています。

もっとも伝えたかったのは、核となる考え方

最近、“共生社会”や“多様性”という言葉が聞かれるようになってきました。
この本では、一貫して思っていること、つまり『多様なのって当たり前なんだな』という思いを記していて、そこが伝われば嬉しいです。
障がいがあったりアスリートであったり……、普通とはちょっと違うということを自覚もしていますが、「それでも皆さんと同じ世界のなかでぼんやりと生きている。いろいろな人がいるけど、みなさんとともに生きてるんだ」というメッセージを込めました。

当たり前ですが、人は物事に対していろいろと考えてしまいます。「これはこうなのか?」「いや、こうかもしれない……」。もっとシンプルに自分の心に無理しないで考えたり表現すれば良いかと思います。
過去の自分の言葉を集めてもらうと、自分がそんなふうに考えている人間だということが分かりました。そういうマインドを、この本を通じて皆さんとシェアできたら良いなと思います。

エピソードのなかに、“戦略的撤退”という特に気に入っている言葉があります。障がいがあり、アスリートでもあると、すごく強靭なメンタルを持っていると思われがちなんですが、全然そんなことはありません。小さなことで困ったりイライラしたりもします。あえて撤退するという選択もたくさんしてきましたし、そのエピソードも書いています。僕はたしかに珍しい状況の人間だとは思いますが、決して特別ではないんです。

いまのマインドを形成した家族の存在

様々な場面で「心のブレーキ」を踏んでいるのは、家族の影響があったかもしれません。
主にブレーキをかけてくれている母と、楽しそうに自由に生きている父の元で育ちました。ブレーキには2種類あって、1つ目は危険などから身を守る意味で、無理をしないというブレーキ。これは全盲である以上、命にかかわるので幼いころから染みついてきています。そしてもう1つは、感情へのブレーキです。

2018年にいきなりアメリカに行ったことは、自身のブレーキが壊れていたのかもしれません。会社のみなさんが代わりにブレーキをかけてくれていました。今は周囲のブレーキを借りつつ、良い速度になっていると思います。

早い時期から寮生活や1人暮らしをしていましたが、両親としては「もっと介入したい」「手元に置いておきたい」という気持ちがあったのかもしれません。両親は、心配の感情を抑え、各地への遠征にも同行しませんでした。しかし、最近になってようやく試合を見にきてくれるようになりました。泳ぎに磨きをかけているこのタイミングで見に来てもらえる事に感謝しています。

伝える楽しさを感じながら工夫した本づくり

『闇を泳ぐ』について「読みやすかった」という感想をいただいたのはうれしかったです。実は文章を書くことは昔から苦手でした。小学校のとき、遠足の感想をテーマに作文を書くように言われたのですが、タイトルにさえダメ出しされたくらいです。ですが、高校では小論文の課題が多く、何度も添削されながら書き続けたことで鍛えられたように思います。加えて、アメリカ時代にブログを書いたりしていたことも、文章を書く楽しさを知る土台になった気がします。
今回、文章を綴っている過程は楽しかったですし、また多くの人に手に取ってもらえるよう工夫をしました。どこから読み始めても違和感がないように各エピソードをまとめたり、1つのエピソードもあまり長くならないようにしたので、気楽に読んでもらえると思います。

パリ2024に向けて、ラストスパート!

正直に言えば、今はまだフォーム改善の途中なので、メダルよりも自分の泳ぎが良くなることが1番の目標です。とはいえ、パリへの切符も手にしましたし、アスリートとして「出るからには……!!」という思いも当然あります。理想は、自分の泳ぎが良くなってタイムが速くなり、それがメダルやその色に繋がっていくこと。

パリ2024パラリンピック大会までの残りの時間は、やれることを着実にやっていくだけと思っています。これまでと変わらず泳ぎを追及し、磨きをかけていきたい。少しでも速く、少しでも効率よく泳いで、また金メダルが獲れたら最高です。

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