東京ガスグループトピックス
革新的メタネーション技術でエネルギー業界に変革を◆普及拡大へe-メタンのコスト削減に向けた挑戦
2023年9月28日
東京ガスグループは、経営ビジョン「Compass2030」において、事業活動全体で、お客さま先を含めて排出するCO₂をネット・ゼロにすることに挑戦すると掲げています。
その鍵を握るのが、CO₂から都市ガスの原料となるメタンを生成する「メタネーション」という技術。将来的にこのメタネーションにより生成されたメタンが広く使用され、エネルギーの脱炭素化に大きく貢献することが期待されます。
未来を背負い、メタネーションの推進・開発をおこなう最先端の現場と日々挑戦を続けている社員をご紹介します。
革新的メタネーション技術とは
東京ガス 水素・カーボンマネジメント技術戦略部 水素・メタネーション材料技術グループ 赤羽です。私は「革新的メタネーション技術」の研究開発をおこなっています。
■メタネーション技術とは
東京ガスが推進するメタネーション技術とは、水素とCO₂からe-メタン(合成メタン)を製造する技術です。e-メタン(合成メタン)も燃焼時にCO₂を排出しますが、製造時の原料として、排気ガス等から回収したCO₂を使うため、実質的に大気中のCO₂は増えません。
メタンの原料である水素を水の電気分解で生成する際、電力を再生可能エネルギーとして使用すれば、水素生成時にCO₂が発生しないため、e-メタンはカーボンニュートラルなエネルギーとなります。
また、e-メタンは既存のLNGインフラ、都市ガスインフラを用いた輸送や供給が可能であるため、都市ガスをe-メタンに置き換えることにより、経済的にガスのCO₂ネット・ゼロを目指すことができます。
このようなことから近年、メタネーション技術は、ガス事業のカーボンニュートラルを実現できる最も有力な技術であることから注目されており、東京ガスの事業のみならず、日本全体のカーボンニュートラル化と安定的なエネルギー供給の実現に貢献する、極めて重要な技術の一つとされています。
■メタネーション技術の実用化の課題と「革新的メタネーション技術」
メタネーション技術の実用化の課題は、e-メタンの製造コストが高額であることであり、普及拡大への大きなハードルの一つとなっています。
そこで、私たちはe-メタンの製造コスト低減を目指して「革新的メタネーション技術」の研究開発を進めており、e-メタンの実用化・普及拡大に寄与することをミッションとしています。
3つの革新的メタネーション技術
■「革新的メタネーション技術」—1
設備の低コスト化、排熱の有効活用を実現する「ハイブリッドサバティエ」
「革新的メタネーション技術」の一つ目が「ハイブリッドサバティエ技術」です。
従来は、水素とCO₂を高温(約500℃)で化学反応させ、触媒で反応を促進させる「サバティエ反応」を活用していました。このサバティエ反応は、水電解装置、水素タンク、メタン合成装置といった複数の設備を用意する必要があり機器コストが高いこと、約500℃にもなる大きな発熱を伴い、熱マネジメントが困難であることなどが課題となっていました。
これに対し、「ハイブリッドサバティエ技術」は、そのサバティエ反応を低温(~220℃)で行うことにより、従来では難しかった“サバティエ反応で発生する熱を水電解へ活用する技術”の確立に取り組んでいます。
水電解により水素を製造する際には大量の電力が必要であり、高コストの要因の一つとなっておりますが、サバティエ反応で発生する熱を水電解へ活用できれば、高効率化によるコストダウンを実現できます。
現在は、サバティエ反応と水電解反応の熱融通を可能とする一体型構造のデバイスを開発することで、適正な熱マネジメントおよび機器コスト低減の検討も進めています。この「ハイブリッドサバティエ技術」は、JAXA(宇宙航空研究開発機構)との共同研究です。宇宙用の小規模試作デバイスで原理実証済みであり、その成果を応用することで早期の社会実装を目指しています。
■「革新的メタネーション技術」—2
水とCO2から直接メタンを製造する「PEMCO₂還元技術」
「革新的メタネーション技術」の二つ目が、「PEM(固体高分子電解質膜=Polymer Electrolyte Membrane)CO₂還元技術」です。
既存の水電解(電気の力を利用して水を水素と酸素に分解させる)にも用いられているPEMを利用して、CO₂を直接e-メタンへ電気化学還元する技術です。サバティエ反応を必要とせず、1つの反応でメタンを合成できるため、シンプルな設備構成から大幅な設備コスト低減が可能となります。
水電解では水のみを供給しますが、PEMCO₂還元デバイスには水とCO₂を供給します。既存の水電解ではデバイスの電極に塗布された触媒によって電解反応を引き起こし、H₂とO₂が得られますが、CO₂還元デバイスではCO₂還元触媒によって、H₂の代わりにメタンが合成される仕組みです。
しかし、「PEMCO₂還元技術」では、メタン以外にも副生成物が合成されます。そのためメタン合成の選択性が高い電極の開発をはじめ、エネルギー変換効率の向上といった開発課題に、大阪大学と共に取り組んでいます。
■「革新的メタネーション技術」—3
メタン菌の代謝によりメタンを発生させる「バイオリアクター技術」
「革新的メタネーション技術」の三つ目が、「バイオリアクター技術」です。「バイオリアクター」は微生物の生存活動(代謝)を用いて、特定の原料から所望の物質(生産物)を生み出す反応器であり、発酵食品や醸造食品などの生産にも活用されています。
メタネーション技術に応用する微生物は「メタン菌」。メタン菌は代謝するとメタンガスを発生します。メタン菌による「バイオリアクター技術」は、低コストかつ大規模化が容易に実現できる可能性を秘めていますが、課題も少なくありません。その一つが、メタン菌の代謝速度が遅いことです。菌一つ当たりのメタンガス生成の代謝速度を上げるのが、今後の開発のポイントになってきます。
その実現のために、現在、SyntheticGestalt株式会社や東京工業大学と連携して、AIを用いたメタン菌の遺伝子組み換えの検討も進めています。
誰も達成していないことに挑戦できるやりがい
「ハイブリッドサバティエ技術」「PEMCO₂還元技術」「バイオリアクター技術」からなる「革新的メタネーション技術」の研究開発は、数年前から始まったもので、現在は、社会実装に向けラボベースで検討を進めている準備段階です。今すぐ社会実装できる段階ではないため、当面のメタネーション技術の主流になるのは既存技術(サバティエ反応)を用いたe-メタン合成技術です。
2020年代前半に小規模実証、同後半には国内での地産地消などによる活用を進め、2030年には海外で大量に製造したe-メタンを日本に輸送し、東京ガスが供給する都市ガスの1%分をe-メタンに置き換えることを目指しています。その後、商用化を順次拡大し、2050年には東京ガスが目標としているカーボンニュートラルを実現します。
社会実装の拡大において、既存のメタネーション技術から「革新的メタネーション技術」への順次転換を想定しています。e-メタンの製造コスト低減に向けた「革新的メタネーション技術」の開発は、どの企業もなし得ていない、未来のガスエネルギーにフォーカスした取り組みです。誰も達成していないことに挑戦できること、それが東京ガスの将来を左右し、また地球環境や世界の明るい未来に貢献できるところに、やりがいを感じています。
「革新的メタネーション技術」の推進が、カーボンニュートラルを実現し、地球と世界のより良い未来に貢献できるように挑戦を続けてまいります。
東京ガス 水素・カーボンマネジメント技術戦略部 水素・メタネーション材料技術グループ 赤羽です。私は「革新的メタネーション技術」の研究開発をおこなっています。
■メタネーション技術とは
東京ガスが推進するメタネーション技術とは、水素とCO₂からe-メタン(合成メタン)を製造する技術です。e-メタン(合成メタン)も燃焼時にCO₂を排出しますが、製造時の原料として、排気ガス等から回収したCO₂を使うため、実質的に大気中のCO₂は増えません。
メタンの原料である水素を水の電気分解で生成する際、電力を再生可能エネルギーとして使用すれば、水素生成時にCO₂が発生しないため、e-メタンはカーボンニュートラルなエネルギーとなります。
また、e-メタンは既存のLNGインフラ、都市ガスインフラを用いた輸送や供給が可能であるため、都市ガスをe-メタンに置き換えることにより、経済的にガスのCO₂ネット・ゼロを目指すことができます。
このようなことから近年、メタネーション技術は、ガス事業のカーボンニュートラルを実現できる最も有力な技術であることから注目されており、東京ガスの事業のみならず、日本全体のカーボンニュートラル化と安定的なエネルギー供給の実現に貢献する、極めて重要な技術の一つとされています。
■メタネーション技術の実用化の課題と「革新的メタネーション技術」
メタネーション技術の実用化の課題は、e-メタンの製造コストが高額であることであり、普及拡大への大きなハードルの一つとなっています。
そこで、私たちはe-メタンの製造コスト低減を目指して「革新的メタネーション技術」の研究開発を進めており、e-メタンの実用化・普及拡大に寄与することをミッションとしています。
3つの革新的メタネーション技術
■「革新的メタネーション技術」—1
設備の低コスト化、排熱の有効活用を実現する「ハイブリッドサバティエ」
「革新的メタネーション技術」の一つ目が「ハイブリッドサバティエ技術」です。
従来は、水素とCO₂を高温(約500℃)で化学反応させ、触媒で反応を促進させる「サバティエ反応」を活用していました。このサバティエ反応は、水電解装置、水素タンク、メタン合成装置といった複数の設備を用意する必要があり機器コストが高いこと、約500℃にもなる大きな発熱を伴い、熱マネジメントが困難であることなどが課題となっていました。
これに対し、「ハイブリッドサバティエ技術」は、そのサバティエ反応を低温(~220℃)で行うことにより、従来では難しかった“サバティエ反応で発生する熱を水電解へ活用する技術”の確立に取り組んでいます。
水電解により水素を製造する際には大量の電力が必要であり、高コストの要因の一つとなっておりますが、サバティエ反応で発生する熱を水電解へ活用できれば、高効率化によるコストダウンを実現できます。
現在は、サバティエ反応と水電解反応の熱融通を可能とする一体型構造のデバイスを開発することで、適正な熱マネジメントおよび機器コスト低減の検討も進めています。この「ハイブリッドサバティエ技術」は、JAXA(宇宙航空研究開発機構)との共同研究です。宇宙用の小規模試作デバイスで原理実証済みであり、その成果を応用することで早期の社会実装を目指しています。
■「革新的メタネーション技術」—2
水とCO2から直接メタンを製造する「PEMCO₂還元技術」
「革新的メタネーション技術」の二つ目が、「PEM(固体高分子電解質膜=Polymer Electrolyte Membrane)CO₂還元技術」です。
既存の水電解(電気の力を利用して水を水素と酸素に分解させる)にも用いられているPEMを利用して、CO₂を直接e-メタンへ電気化学還元する技術です。サバティエ反応を必要とせず、1つの反応でメタンを合成できるため、シンプルな設備構成から大幅な設備コスト低減が可能となります。
水電解では水のみを供給しますが、PEMCO₂還元デバイスには水とCO₂を供給します。既存の水電解ではデバイスの電極に塗布された触媒によって電解反応を引き起こし、H₂とO₂が得られますが、CO₂還元デバイスではCO₂還元触媒によって、H₂の代わりにメタンが合成される仕組みです。
しかし、「PEMCO₂還元技術」では、メタン以外にも副生成物が合成されます。そのためメタン合成の選択性が高い電極の開発をはじめ、エネルギー変換効率の向上といった開発課題に、大阪大学と共に取り組んでいます。
■「革新的メタネーション技術」—3
メタン菌の代謝によりメタンを発生させる「バイオリアクター技術」
「革新的メタネーション技術」の三つ目が、「バイオリアクター技術」です。「バイオリアクター」は微生物の生存活動(代謝)を用いて、特定の原料から所望の物質(生産物)を生み出す反応器であり、発酵食品や醸造食品などの生産にも活用されています。
メタネーション技術に応用する微生物は「メタン菌」。メタン菌は代謝するとメタンガスを発生します。メタン菌による「バイオリアクター技術」は、低コストかつ大規模化が容易に実現できる可能性を秘めていますが、課題も少なくありません。その一つが、メタン菌の代謝速度が遅いことです。菌一つ当たりのメタンガス生成の代謝速度を上げるのが、今後の開発のポイントになってきます。
その実現のために、現在、SyntheticGestalt株式会社や東京工業大学と連携して、AIを用いたメタン菌の遺伝子組み換えの検討も進めています。
誰も達成していないことに挑戦できるやりがい
「ハイブリッドサバティエ技術」「PEMCO₂還元技術」「バイオリアクター技術」からなる「革新的メタネーション技術」の研究開発は、数年前から始まったもので、現在は、社会実装に向けラボベースで検討を進めている準備段階です。今すぐ社会実装できる段階ではないため、当面のメタネーション技術の主流になるのは既存技術(サバティエ反応)を用いたe-メタン合成技術です。
2020年代前半に小規模実証、同後半には国内での地産地消などによる活用を進め、2030年には海外で大量に製造したe-メタンを日本に輸送し、東京ガスが供給する都市ガスの1%分をe-メタンに置き換えることを目指しています。その後、商用化を順次拡大し、2050年には東京ガスが目標としているカーボンニュートラルを実現します。
社会実装の拡大において、既存のメタネーション技術から「革新的メタネーション技術」への順次転換を想定しています。e-メタンの製造コスト低減に向けた「革新的メタネーション技術」の開発は、どの企業もなし得ていない、未来のガスエネルギーにフォーカスした取り組みです。誰も達成していないことに挑戦できること、それが東京ガスの将来を左右し、また地球環境や世界の明るい未来に貢献できるところに、やりがいを感じています。
「革新的メタネーション技術」の推進が、カーボンニュートラルを実現し、地球と世界のより良い未来に貢献できるように挑戦を続けてまいります。