社員750万人の熱量が、
天然ガスを日本のあたり前に。
新たなクリーンエネルギーは、社会を支えるエネルギーになるか。その鍵を握ったのは、前代未聞の一大プロジェクトであった。東京ガスは「社会に天然ガスを普及させる」という使命を背負い、熱量変更プロジェクトを開始。今ではエネルギー源としてあたり前に社会を動かしている天然ガスを、庭やオフィス、商業施設などあらゆる場所に届けるまでの17年の挑戦を記していく。
01 一軒一軒を回って手作業する、一大プロジェクト。Xデーに向けた、知られざる奮闘
日本で初めて大規模なLNG輸入に成功した一方、どうやって社会に天然ガスを届けるかという新たな難関が立ちはだかる。それまで家庭や商店、オフィス、工場で使う都市ガスの機器は原料となる石炭や石油の熱量に対応するよう、設定されていた。すなわち、天然ガスを原料とした都市ガスを使用する一軒一軒を訪れて既存のガス機器の熱量設定を手作業で変更する必要があった。考えただけで気が遠くなるだろう。そんな数しれぬ困難を前にこの一大プロジェクトは、熱量変更と命名された。そんな状況の中、ついに1969年、熱量変更開始のXデーに向けてプロジェクトが動きはじめる。社会に天然ガスを普及するには、他にも検討事項が山ほどあった。どうやって安定したガス源を確保するか、どうしたら限られた作業員で膨大な手作業を捌けるか、どの地区から着手するのが現実的か。わずか11名で構成された少数精鋭のメンバーが、現場での熱量変更をするための数百もの検討事項を一つひとつ精査していった。彼らを突き動かしていたのは、「社会に天然ガスという新しいエネルギー源を届ける」という強い使命感であった。さらに、欧州各国とも細やかに連携。先行事例から多くの知見を得ながら、テストケースを丹念に積み上げ、ついに大規模プロジェクトへと踏み切っていった。
02 転換地獄と呼ばれるほどの、困難の連続
最も課題となったのは、首都圏の一軒一軒を回って熱量変更する途方もない人手をどうするかであった。そして論議を重ねるうちに、一つの考えにたどり着く。社員であれば、それまでの知見を活かせる。その上、この機会は顧客とのコミュニケーションチャンスになる。このようにして、想像しただけで気が遠くなるほど広範囲に及ぶ熱量変更は外部に委託することなく、社員の手で担うことに決定した。「未来をひらく新しい炎をともそう」という強い想いが、社員たちを突き動かしていた。しかし、作業が進むにつれて事態は一変。「転換地獄」という言葉が生まれるほど、想定を超えた問題が次々と起こった。技術的な不慣れ、ガス機器の老朽化、そして未登録機器の大量発覚など想定以上の困難に直面しただけではない。ときには、子供が寝静まってからガス機器の調整に向かうなど作業は連日、深夜にまで及んだ。そんな使命感にあふれる背中を事務サイドもまた、作業員の衣食住に至るまで献身的にサポートした。また、1972年から作業を開始し、当初は手探りだった作業も、エリアを拡大するにつれて抜本的な効率化を図った。骨の折れる作業もなんとか社員一丸となって乗り越えていた時、新しい壁にぶつかる。それが安全性などへの不信感から起こった反対運動であった。この運動はマスコミで大きく採り上げられるほど熾烈を極めたが、東京ガスは丁寧に説明を繰り返し、協力を仰いだ。その結果、住民から感謝状が届くまでに大きな信頼を得られたのである。
03 首都圏550万件の熱量変更がついに完遂。新しいインフラを全国へ
作業開始から17年を要した熱量変更プロジェクトは、ついに終結を迎える。熱量変更作業で訪れた件数は、実に首都圏の550万件(当時)。延べ750万人もの社員を投じた、壮大な挑戦であった。プロジェクトの閉所式で当時の熱量変更の統括センター所長であった越智は、社員の苦労をねぎらう専務の言葉に続き、「『つわものども』がこのプロジェクトにかけた熱き血潮を、新たな職場でさらにたぎらせ、発展されることを祈ります。」と語った。高度経済成長期だからこそできた試みでもある。こうした東京ガスでの成功がきっかけとなり、当時の通商産業省(現・経済産業省資源エネルギー庁)は、「IGF21計画」をとりまとめる。これは、都市ガス会社、機器メーカー、そして消費者の立場から、全国の都市ガス会社で天然ガスの利用を推進する内容であった。また、東京ガスは自社の熱量変更作業が終了した後も、経験と知見を社会に還元。日本各地の都市ガス会社も続々と天然ガスの導入を始めていった。東京ガスは、天然ガスの都市ガス利用を開拓したパイオニアとして全国にある都市ガス会社の熱量変更を支援し、地方への普及拡大を図っていった。こうして社員の力でプロジェクトに挑んだ唯一無二の経験こそが、現在における都市ガスと地域社会の間にある信頼関係の礎となり、都市ガスの最大の資産として今も生き続けている。
まとめ
数々の試練を乗り越えたプロジェクトは、世界でも当時類を見なかった大規模での天然ガス利用という未踏の領域を切り拓いた。延べ750万人もの社員一人ひとりの使命感と団結が、天然ガスを日本のエネルギーインフラにおけるあたり前へと変革したのである。国のインフラを支えるため、経済成長に伴って社会にクリーンなエネルギーを届ける。だれも挑戦したことのない可能性に挑み続けた東京ガスは、こうして今の顧客との信頼関係を繋ぎ、歴史を刻んでいったのである。



