R&D
水電解用CCM(商品名:PEXEM™)
水電解用CCMとは?
水電解とは、水を電気分解して水素を作ることです。
CCM(Catalyst Coated Membrane)は、薄い膜の両面に触媒が付いたもので、水電解装置の水素発生を担う基幹部品です。
取り組みの背景
水電解装置は、環境負荷が少ないことで注目されているグリーン水素を手に入れるために必要となります。
水素の製造方法の種類について
グレー水素は、化石燃料から作られた水素であり、CO₂は大気中に排出されてしまいます。
ブルー水素は、グレー水素と同じく化石燃料から水素を作りますが、CO₂は大気中には排出されず、回収や貯蔵、利用されるものを指します。
一方でグリーン水素は、水電解装置を用いて再エネ電力と水から水素を製造するため、CO₂が製造過程で排出されません。
また、グリーン水素はe-methaneの製造にも必要です。
カーボンニュートラル社会実現に向けて、グリーン水素は世界各国で今後需要が急拡大すると見込まれています。
出典:BloombergNEF
目指す姿
グリーン水素はまだまだ製造コストが高いのが現実です。主なコストは、水電解装置代と、装置を動かすための再エネ電力代が占めています。
出典:OECD, Environment Working Papers No.227 (2023)
東京ガスは、水電解装置代の低廉化に向けて、水電解用CCMに使われている高価な貴金属(イリジウム)の削減に取り組んでいます。
なぜ東京ガスが水電解用CCMの技術開発に取り組むの?
東京ガスは、⻑年エネファーム(燃料電池)の研究を実施してきました。
水素と酸素の化学反応で電気を生む燃料電池は、水の電気分解の逆反応に相当し、双方に類似した技術が用いられています。
私たちの研究のキーポイントは、水電解反応の効率を高める触媒技術です。水電解用CCM表面に付いている触媒がとても高価なため、貴金属の少量化や、別の物に置き換える等、東京ガス独自の技術がコスト削減に役立っています。
取り組み詳細
東京ガスは株式会社SCREENホールディングス(以下、「SCREEN」)と共に、水電解用CCM(商品名:PEXEM™(読み方:ペクセム))の共同開発を行い、低廉な水電解用CCMを商品化しました。
東京ガスのエネファーム(燃料電池)で培った触媒・評価技術と、SCREENの世界シェアNo.1を誇るディスプレー用塗布現像装置で培った塗布・乾燥技術とノウハウを融合させ、低廉に製造・販売する体制を整えました。
東京ガスの触媒量少量化技術により、2030年欧州目標3分の1を達成。現在は、さらなる省イリジウム化に加え、イリジウムを使わない代替素材の開発も進めています。
代替材料の探索は、米国スタートアップ企業Calicat社 (旧H2Uテクノロジーズ社) と共同開発を行っており、AIとインクジェット技術をもちいたCalicat社独自の技術により、1サンプルの設計・合成・評価に3~4日要していた工程を、10分程度に短縮し、実験効率を高めています。また、得られた実験データをもとに、AIを活用して、高性能な非イリジウム触媒の実現を目指しています。
働く人の声
■担当している業務
PEM形水電解セル販売事業立ち上げと戦略策定
■印象に残っている仕事は?
カーボンニュートラルの実現に向け、グリーン水素のニーズはグローバルに高まっています。一方で、グリーン水素の普及に向けた取り組みは世界で初めての試みであり、既存の観念や規制に挑戦しつつ、粘り強く市場を切り開くためには、高い分析力と熱意が求められます。水電解セルのお客さまは主に欧州を中心に多く存在するため、文化や言語の壁も影響します。日本にいるだけでは、海外のお客さまに対して情報を発信することは容易ではありません。海外のお客さまと直接の関係を築くためには、ダイレクトマーケティングが重要です。そのため、海外の展示会にも出展しています。海外展示会は国内のイベントに比べ、事前準備や当日の運営が何倍も大変ですが、そこでお客さまの経営層や購買責任者に直接アピールする絶好の機会を得ることができます。このような積極的な取り組みにより、20社以上のお客さまと商談を始めています。
■所属グループでの働き方は?
カーボンニュートラルに向けた取り組みが進むかどうかの分岐点にあるこの時代において、私たちは舵を取る役割を担っています。服装や働き方が自由な職場で、活発なコミュニケーションを交わしながら、新しいことに挑戦する日々を送っています。
水素・カーボンマネジメント技術戦略部 水電解事業化推進グループ
荻原 崇