【エピソード10】挑戦の先に広がる景色へ — パラアスリート 木村敬一選手の今
2024年夏、パリ・パラリンピックで金メダルを獲得した木村敬一選手。フォーム改善という大きな挑戦を経てたどり着いた頂点から見えたのは、どのような景色だったのでしょうか。大会から1年半が経った今、競技の枠を超えた様々な挑戦を続ける木村選手の言葉から、その歩みと未来への想いを紐解きます。
スポーツが持つ、復興への力
パリでの活躍後、木村選手が精力的に取り組んだ活動の一つに、能登半島地震の被災地支援があります。これは、アスリートならではの社会貢献をミッションとしている日本財団「HERO's」の一員としての活動でした。
被災地では、小学生からご高齢の方まで、たくさんの人々とスポーツレクリエーションを行いました。ささやかな時間ではありますが、日常の生活に多くの困難を抱える被災者の方々にとって、レクリエーション以上の大きな意味を持つものでした。
被災された方から「毎日がつまらない」「生活することで精一杯」といった声を聞き、「そんな中に今回のような“非日常”があるのが嬉しい、震災以降こんなに騒いだのは初めてだという声をいただいたんです」と木村選手は語ります。
「現地の方に喜んでいただけたこと、こればかり聞こえるかもしれませんが、初めてちゃんと社会から求められた気がしました」
この経験は、スポーツが持つ力を再認識し、今後の復興支援のあり方を考える大きな機会となりました。
異分野との融合 — JAXAとの新たな取り組み
2025年に入ると、木村選手はJAXA(宇宙航空研究開発機構)とスポーツ庁が共同で進めるプロジェクトに参加しました。これは、宇宙開発とスポーツという異なる分野の知見やノウハウを共有し、社会全体の発展に役立てることを目指すものです。
「そして、宇宙という死と隣り合わせの状況で過ごしている宇宙飛行士の方々のフィジカルやメンタルはすごいと思うので、そんなところをスポーツ界にフィードバックしてもらえることを期待しています」
極限状態で活動する宇宙飛行士から得られる知見を、自身の競技やパラスポーツ全体にどう活かしていくか。この壮大な挑戦は、木村選手に新たな可能性を感じさせています。
地域に根差した活動と、共生社会への視点
2025年秋、木村選手の出身地である滋賀県で、全国障害者スポーツ大会「わたSHIGA 輝く障スポ」が開催されました。開会式で炬火走者として参加した木村選手は、大会を通じて改めて気づいたことがあったと語ります。
それは、多くの障がい者が全国から集まることで浮き彫りになった、宿泊施設のバリアフリールーム不足や駅整備の遅れといった、ハード・ソフト両面の課題です。
「滋賀県に、これだけの障がいがある人が全国にいるんだということを知ってもらえたのも良かった」
大会開催が、地域のバリアフリー化や共生社会への意識を高めるきっかけになること。その意義を木村選手は強く感じています。
セカンドキャリアという未来の選択
パリ2024以降、競泳以外のさまざまな挑戦を続ける木村選手ですが、もちろん本業である競泳選手としての進化も止まりません。シンガポールで開催された世界大会では100mバタフライで銅メダルを獲得し、100m自由形では非公式ながら自己ベストを更新するなど、今なおトップレベルで活躍しています。競技者として進化を続けながらも、木村選手は自身の「セカンドキャリア」を冷静に見つめています。
最近では、NHKの番組「はじめての2人旅」で、俳優のモクタールさんと共に無人島サバイバルに挑戦しました。
「ご一緒した方は本当にその日が初めましてだったんですが、正直言うと無人島が過酷すぎて相手がどなたでも関係ないと思うほどでした(笑)。画面では楽しそうに見えていたかもしれませんが、実際は本当にキツくて……。僕はテレビって“大変そうに見せているけど実際はそんなことないんでしょ、楽しいんでしょ”って思っていたんですけど、逆の意味で裏切られましたね」
この経験は、競技とは全く違う環境で、ゼロから物事を組み立てる思考を養う貴重な機会となりました。
2024年以降、競技以外のさまざまなことに挑戦してきた木村選手。その経験は未来にどう繋がっていくのでしょうか。
「うーん、この期間に僕が経験してきたことって、それぞれのほんの一部なんです。本質的なところが分かるほどの経験はしていないし、闇雲に探すものでもないですよね。それに、セカンドキャリアとして何かを選択するなら、今の水泳人生と同じくらい軸になるものじゃなきゃいけない。それって相当なものです。だからこそ、今はさまざまな経験をし、人脈を広げながら、自分の引き出しをどんどん増やしていく段階だなと思っています」
出会う人を一瞬でファンにしてしまう魅力を持つ木村選手。競技者として、そして一人の人間として、彼の挑戦の旅はまだ始まったばかりです。その未来に、ますます期待がふくらみます。
木村選手インタビュー
エピソード10
挑戦の先に広がる景色へ — パラアスリート 木村敬一選手の今








