2026.09.15

首都圏のエネルギー安定供給の重要拠点。LNG基地が挑む「攻め」のDX最前線

ホルムズ海峡封鎖の話題で「エネルギー安全保障」への関心が高まっています。都市ガスの主原料である液化天然ガス(LNG)もまた、供給不足や価格高騰を不安視するニュースを目にする機会が増えました。

普段、私たちが「当たり前」に利用している電気やガスなどのエネルギー。その裏側には、さまざまな条件下で「当たり前」を実現し続けるための取り組みがあります。それは日本にLNG船が到着した後、都市ガスとなって生活者や企業まで届く過程でも続きます。

茨城県日立市の日立LNG基地。2026年3月に操業10周年を迎えたこの基地では、24時間365日安定供給を実現するため、運営業務のDX化が進められています。

日立LNG基地 所長の平賀とDXを担う操業部の佐藤に、生活者や企業の「当たり前」を守る挑戦の舞台裏について聞きました。

首都圏の都市ガス供給を支える日立LNG基地

海外から船で届いたLNGがその後どのように生活者に届けられるのか、知らない人が多いかもしれません。

東京ガスでは、LNG船を4つの基地(根岸、袖ケ浦、扇島、日立)で受け入れています。各基地では、輸入したLNGを気化し、熱量を調整して都市ガスを製造。首都圏を網羅するパイプラインで供給しています。万が一の災害やトラブルに備え、東京湾岸の3つの基地と北関東の日立基地を広域パイプラインで結ぶことで、相互バックアップが可能な体制を整えています。

日立LNG基地は、東京ガスが根岸、袖ケ浦、扇島に次いで構えた4番目の基地で、敷地には地上式では国内最大級となる容量23万klのLNGタンクが2基、液化石油ガスを貯蔵する5万klのLPGタンクが1基並びます。

LNGタンクには日立市のシンボルでもある桜が描かれている

「日立LNG基地は、東日本大震災の教訓を生かし、地震や津波対策を徹底して設計されました。操業以来10年間、安定供給を継続しています。さらに2021年の『茨城幹線』開通により、関東の4基地がパイプラインで結ばれ、相互補完体制が確立されました。こうしたLNG基地の存在が、都市ガスの供給安定性を高め、日本のエネルギー安全保障を支えているのです。

また、操業からの10年は地域との信頼を築く歩みでもありました。当初、地元からは『外から来た企業』という意識を持たれていたかもしれません。しかし、漁協や港湾関係者の皆さまと対話を重ねたり、地元のお祭りに参加したりすることで、今では『日立という街をともに支える一企業』として、この地に根を下ろしている実感があります。地域の皆さまの支えがあるからこそ、私たちは24時間365日の操業を続けられるのです」(平賀)

エネルギー安全保障のための「攻め」のDX

日立LNG基地の年間取扱量は、操業開始から約10年で、当初の約70万トンから、昨年度には約140万トンへと倍増しています。

「安定供給という『守り』と、効率化という『攻め』。この両方を高い次元で両立させることが、これからの私たちの最大の課題です」(平賀)

そう語る平賀所長が目指すのは、安全を最優先しつつ、効率的にガスを供給するという挑戦です。DXの導入もその一環。人手に頼りすぎないスマートなオペレーションを追求しています。

「安定供給を守ることは大前提ですが、それだけで満足してはいけません。DXを推進し、無駄を削り、より効率的にオペレーションを行う。こうした地道な効率化の積み重ねこそが、運用コストの抑制に繋がり、最終的にお客さまにエネルギーを『適切な価格』で届け続けるという、インフラ企業としての責任を果たすことにつながるのです」(平賀)

供給への備えは万全に、しかしオペレーションはよりスマートに。生活者の「当たり前」の日常は、こうした「守り」と「攻め」の両立への挑戦によって支えられています。

DX担当の佐藤は、現場の取り組みをこう語ります。

「私たちの目標は、誰が担当しても同じ高いレベルでガスを製造し、安定供給できる体制を築くことです。DXによって業務を標準化し、人の技能に依存しない仕組みを作ることが、結果として無駄を省き、効率的な操業につながります」(佐藤)

人が登っていたタンク点検を、ドローンに置き換える

DXの推進によって、現場の仕事も変わり始めています。毎日のタンク点検では、かつて社員が1日1回、階段で地上約60mのタンクの上まで登り、目視で点検していました。

この点検を、今ではドローンが担っています。機体はAIによる自律飛行と障害物回避機能を搭載。操縦者はスタート地点でボタンを1つ押し、約400mのルートを飛ぶ機体と並走して、終点で回収します。人の技能に左右されず、安定して運用できることが採用の決め手でした。

ただし、可燃性ガスを扱うLNG基地でドローンを飛ばすには、安全性の検証が欠かせません。

「ドローンを導入する際、最も重視したのは『万が一』の想定です。もしもの墜落や発火のリスクをどう考えるか。プラントの安全を脅かす可能性があるなら、導入は許されません。想定されるリスクを一つひとつ洗い出し、技術的な検証と安全対策を積み重ねました」(佐藤)

DXによる変革は、現場の働き方にも劇的な変化をもたらしました。これまで人がタンクに登って行っていた点検作業は、ドローンの導入により、約90分から30分へと大幅に短縮されました。

「一度この効率の良さを知ってしまうと、もう以前のやり方には戻れないという声が現場からも上がっています。効率化で得られた時間をさらなる安全管理や技術の習得に充てられる点でも、ドローンが大きな助けになっていますね」(佐藤)

暗黙知をデータにして、ローリー出荷を自動化

人の技能に左右されない仕組みは、LNGローリーの出荷にも取り入れられています。

日立LNG基地は、パイプラインが整備されていない栃木方面や東北へLNGを送り出す、東京ガス最大のローリー出荷拠点でもあります。年間出荷量は約30万トン。東京ガス全体のローリー出荷量の過半数を占め、多い日には100台近いLNGローリーが基地を出発します。この大量出荷を支えているのが、積み込み作業の自動化です。

LNGの積み込みは、基地の配管をローリーにつないで行われます。しかし、単純にバルブを開きさえすればいいという作業ではありません。常温の配管に超低温のLNGを流すことはできないため、まず少量ずつ流して配管を冷やすクールダウンを行い、温度が十分に下がってから本格的な積み込みに移ります。難しいのは、その切り替えのタイミングを見極めることです。

「どれくらいバルブを開き、何度まで冷えたらクールダウンが完了したと判断するか。こうした判断はこれまで作業員に委ねられていました」(佐藤)

この暗黙知を仕組みに置き換えるため、東京ガスが袖ケ浦や根岸などの基地で蓄積してきた知見をもとに、作業の判断基準をデータ化。作業員が配管を接続してボタンを押すと、クールダウンから積み込みまでをシステムが自動で制御します。

ローリーへの積み込みを自動化しているのは、4基地のなかで日立だけです。その結果、計量から積み込み、出発まで約1時間かかっていた一連の作業を、約20分短縮しています。

3つのサテライト基地を一体運営。遠隔監視で有事に備える

日立からローリーで送り出されたLNGの一部は、中継地となるサテライト基地へ運ばれ、都市ガスになり、周辺の工場などへ供給されます。常磐地域でこの役割を担うのが、高萩、小名浜、常磐鹿島の3つのサテライト基地です。

従来、サテライト基地はそれぞれ独立して運営され、各拠点に保安を担う主任者が1人ずつ配置されていました。しかし、1拠点を1人で担当する体制では、トラブルが起きたときに、ほかの拠点からすぐに応援に入ることができません。

この課題を解消するため、3人の主任者の勤務場所を1カ所に集め、3拠点を一体で運営する体制に改めました。一体運営に向けて焦点となったのが、離れた拠点の保安をどう担うかです。

「運営体制を変えても、保安レベルを下げることはできません。主任者が現地にいなくても、設備の稼働状況を把握し、現地の担当者と確実に連携できることが、一体運営へ移る条件でした」(佐藤)

その条件を満たすため、各拠点にカメラを設置し、遠隔監視システムを導入しました。これは、ノンプログラミングで監視システムを構築できる「JoyWatcherSuite」を用いたもの。カメラの映像と設備データから、3拠点の稼働状況をリアルタイムで把握できます。緊急時にも現地の担当者へ的確な指示を出せるよう、日ごろから連絡を取り合っています。

遠隔監視によって、1拠点で異常が起きた際には、3人が同じ情報を見ながら初動を判断し、必要な拠点へ応援に入れるようになりました。こうした相互補完のネットワークもまた、エネルギー安全保障につながっているのです。

LNG基地の進化がエネルギーの「当たり前」を支える

今後の展望として、日立LNG基地が目指すのは「データドリブン操業」のさらなる深化です。現在、データから異常の予兆をAIが検知し、メンテナンスの最適化を図る取り組みが始まっています。

「AIが24時間データを見守り、わずかな変化を察知して『異常の兆候がある』と教えてくれる。そんな世界を実現するために、様々なデータをいち早く『AIレディ』な状態に整えることが、これからの大きな目標です」(平賀)

こうした技術革新の先にあるのは、エネルギー安全保障を揺るぎないものにするという使命です。ガスをつければ、火がつく。そんな「当たり前」を守るために、LNG基地は日々、目に見えないところで変わり続けています。

「安定供給は『守り』の仕事と思われがちです。しかし、環境が変化し、技術が進歩する中で、私たちも進化し続けなければ、お客さまの当たり前を守ることはできません。目立たない場所であっても、私たちが縁の下から支えているという自負を胸に、これからも安定供給を続けていきたいです」(平賀)

その思いは、次世代を担う佐藤たちにも受け継がれています。

「DXで業務を標準化することで、誰が担当しても同じ高いクオリティーでガスを製造し、供給を途絶えさせない。現場の一人ひとりが『技能に依存しない、より強固な安定供給』を意識し、挑戦し続けることこそが、未来の『当たり前』を支える原動力になると信じています」(佐藤)

昨今は国際情勢に焦点が当たることの多いエネルギー安全保障の問題。一方で、エネルギー安全保障をめぐるもうひとつの挑戦が、日立の地で今も続けられています。日立LNG基地は、デジタルと人の知恵を融合させながら、これからも日本のエネルギーの「当たり前」を支え続けます。

●JoyWatcherSuite
東京ガスが提供する監視システムの開発ツール。ノンプログラミングで手軽に監視システムを構築できる。
※本記事に掲載している人物の役職・所属、および各種情報は、取材当時(2026年8月)のものです。

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