2026.08.06

新宿の地下から脱炭素に挑む。55年進化を続ける巨大プラント「新宿地域冷暖房センター」とは?

東京都庁をはじめ、高層ビル群が立ち並ぶ新宿駅新都心エリア。夏場でも、ビルの中に入れば空調の効いた快適な空間が保たれています。その冷暖房を支えるエネルギーがどこでつくられているのか、普段意識する機会はあまりないかもしれません。

実は新宿新都心エリアの冷暖房の効率化を、東京ガスは50年以上も前から実践してきました。それが、首都圏初の地域冷暖房プラント「新宿地域冷暖房センター」です。

同センターは高度経済成長期の大気汚染対策として産声を上げ、オイルショックによる省エネ、大地震をきっかけとした災害への備え、そして脱炭素へと、その役割を進化させています。同センターの現在地を、所長の本間と操業管理グループの大澤に聞きました。

新宿の高層ビル群の「冷暖房」を支える地下施設

通常、お湯や冷暖房を使うには、建物毎にボイラーや冷凍機といった大型の熱源設備が必要です。しかし、新宿新都心エリアのビルの多くは、建物内に熱源設備を持ちません。

新宿の街の地下深く──、ビル群の熱源設備を1カ所のプラントに集約し、暖房・給湯に使う「蒸気」と冷房に使う「冷水」を製造・供給しているのが東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)の「新宿地域冷暖房センター」です。

新宿地域冷暖房センターのある、新宿パークタワー

TGESは地域冷暖房の販売熱量国内トップの実績*1を有しており、この新宿地域冷暖房センターはその原点となるプラントです。供給先は、東京都庁や京王プラザホテルを含む22棟の高層ビル群。供給区域は新宿新都心の約33ha、東京ドーム約7個分に及びます。

プラント内には、大型の冷凍機やボイラー、そしてガスコージェネレーションシステム(CGS)*2といった設備が並びます。これらを駆使して蒸気・冷水をつくり出し、街へ送り出しているのです。

*1 2025年度実績(出典:(社)日本熱供給事業協会「熱供給事業便覧 令和8年版(令和7年度実績等収録)」)
*2 都市ガスから電気をつくり、同時に発生する排熱を有効利用する設備
コージェネレーションシステム
つくられた電気はプラント内や周辺施設に送られ、災害時の事業継続にも貢献
新宿新都心のビル群の冷房を支える、世界最大級の冷凍機
発電する時に発生した熱で蒸気をつくる、ボイラー設備
新宿新都心の地下にはこの巨大な導管が張り巡らされ、各ビルに冷水や蒸気が送られている
屋上にはエアコンの室外機のように巨大なファンがいくつも回り、快適な空間を支える

「プラントでつくった4℃の冷水と190℃の蒸気を、導管を通じて各ビルへ供給しています。冷水はビルで熱を吸収して戻ってきたものを再び冷やし、蒸気はお湯として戻ってきたものを再び加熱して蒸気に戻す。この循環を繰り返すことで、街全体の冷暖房を支えています」(本間)

地域冷暖房の大きな利点は、街全体で環境負荷を抑えやすくなることです。各ビルが個別に熱源設備を持つのではなく、プラントで一括管理・供給することで、その省エネ効果は20〜30%になります。

一方、冷熱や温熱を受け取るビル側にも運用面でのメリットがあります。

「冷暖房に必要な冷熱や温熱をプラントから受け取ることで、ビル側は自前の熱源設備を持たずに済むのに加え、運転管理の有資格者も不要になります。また、設備を設置するはずだったスペースを有効活用できる点も、大きなメリットです」(本間)

あなたが普段快適に過ごしている新宿のオフィスや商業施設の裏側では、このような大規模な仕組みが動いているのです。

時代とともに進化する新宿地域冷暖房センター

現在は脱炭素の文脈で語られることの多い地域冷暖房ですが、新宿地域冷暖房センターの計画が動き出した1960年代に社会が直面していたのは、別の問題でした。高度経済成長の真っただ中、その裏では大気汚染などの都市公害が深刻化していたのです。

新宿地域冷暖房センター 所長 本間

「公害問題を解決する手段の1つとして、個々のビルが煙突を持つのではなく、熱源を1カ所に集中させてクリーンなエネルギーを届けるという考え方が生まれました。行政の後押しを受けてスタートしたのが、この地域冷暖房事業です」(本間)

1971年、首都圏初の地域冷暖房プラントとして新宿地域冷暖房センターが開業しました。第1号のお客さまとなったのは、同じ年に誕生した京王プラザホテルです。

開業後、同センターは、街の成長と社会の要請に合わせて役割を広げてきました。2度のオイルショックを経て省エネニーズが高まり、90年代には東京都庁の移転や相次ぐ高層ビルの竣工により、熱源設備の需要も大きく伸びました。

こうした需要の拡大を受け、同センターは地上にあった初代プラントから、1991年には規模拡大のため現在の新宿パークタワーの地下へ移転しました。

新宿地域冷暖房センター内にある1/80スケールの模型

さらに、阪神淡路大震災や東日本大震災を経て、災害時に都市機能を支えるBCP(事業継続計画)の役割も大きくなっています。

「BCPには、熱の供給と電気の供給の2つの側面があります。大規模災害などで新宿新都心一帯が停電した場合、まず備蓄燃料で非常用発電機を起動し、その電気でCGSを再起動します。CGSが稼働すると、自ら電力を生み出すとともに排熱も利用できるため、熱供給を再開します。このような仕組みによって、熱と電気の両面で街一帯のBCPに貢献する備えを有しています」(本間)

55年間、365日。エネルギー安定供給のプロフェッショナル

時代の移り変わりとともに、その役割を少しずつ変えてきた新宿地域冷暖房センター。実は、1971年の開業以来、55年の間エネルギー供給を続けています。

「機械なんて、放っておいても勝手に動くと思われるかもしれませんが、決してそんなことはありません。人間と一緒で、機械も不摂生をしているとくたびれていきます。きちんとメンテナンスをするから、きちんと動いてくれるのです」(本間)

同センターによるエネルギーの安定供給を支えているのが、4人1組のチームによる24時間365日の監視体制です。オペレーターは1日2回のパトロールを行い、音や匂い、振動を五感で確かめています。

新宿地域冷暖房センター 操業管理グループ 大澤

「日常的に設備を見ているからこそ、『いつもと音が違う』『匂いが違う』という違和感に気づけます。実際にパトロールでの気づきから、大きなトラブルを未然に防いだこともあります」(大澤)

こうした日々の監視が、プラントの安全を守るための要だとすれば、もう一つ、安定供給に欠かせないのが需要予測です。

冷熱や温熱をつくる設備は、起動してから動作が安定するまでにタイムラグがあります。そのため、需要が発生してから対応したのでは、安定供給を維持することはできません。一方で、使われない冷熱や温熱を過剰につくっていては、無駄が生じてしまいます。

「その日の気温や天候をもとに、エネルギーがどれくらい使われるかを事前に予測し、先回りして機器を運転・停止しています。求められる分を過不足なく届けることが、操業管理の基本です」(大澤)

安定供給を守りながら、プラント効率化に挑む

近年は、プラント全体の効率向上にも取り組んできました。アプローチは大きく二つあります。ひとつは、高効率な設備やシステムの導入。もうひとつは、日々のオペレーションを磨き、エネルギーを無駄なく使う運用に近づけることです。

ただし、予測した需要と実際の使用量は、常にずれます。供給を切らすことはできないため、需要が上振れしても追従できるよう、「安全率」と呼ばれる余力を持たせて設備を運転しています。余力を大きく取れば安心ですが、その分、必要以上にエネルギーを使います。どこまで余力を適正化できるのか。オペレーション面の効率化は、この安全率に踏み込みました。

「安定供給が最優先で、大きなリスクは取らないことを大前提にしました。そのうえで過去の実績をもとに、どこまで実現できるかを職場内でしっかり評価し、安全率を段階的に引き下げていったんです。ただ、運用を変更した直後から安定するまでの期間は、設備や供給に影響が出ないか、通常以上の緊張感とプレッシャーの中で業務にあたりました」(大澤)

その結果、安定供給を確保しながら高効率な運用を実現。これまで当たり前とされてきた運転条件に踏み込んだことで、より最適化された運用へと繋げることができました。

さらに、同センターでは、DXによる現場の業務変革も進めています。AIによる作業計画の自動化などが試行導入され、従来はExcelで3時間かかっていた事務作業が30分に短縮されたケースもあります。

「これまで、要員配置や作業計画といった事務作業に多くの時間を割いていました。しかし、こうした定型的な業務をシステムに任せられるようになれば、その分、現場で本当に注力すべき業務に時間を割けるようになります。DXは、私たちが現場のプロとして、より深く設備と向き合うための時間をつくってくれているんです。こうした取り組みを通じて、これからも安定供給をしっかりと守り続けていきたいですね」(大澤)

新宿の地下から、2050年のカーボンニュートラル実現へ

DXの推進は、単なる業務改善にとどまりません。その先にあるのは、2050年のカーボンニュートラル実現という大きなゴールです。

現在、同センターでは主に都市ガスを燃料として熱や電気をつくり出していますが、化石燃料由来のガスを使用する以上、CO2の排出を完全には避けられません。そのため、これからの時代の要請に応えるには、元になるエネルギーそのものの脱炭素化が不可欠です。

「カーボンニュートラルという世の中の流れに私たちが乗っていけるかどうかが、今後の課題です。カーボンオフセットしたガスの活用、再生可能エネルギーの導入などを段階的に進めて、2050年代には、CO2の排出が実質ゼロの熱供給を目指したいと考えています」(本間)

かつて大気汚染の対策として始まったこの仕組みは、今、カーボンニュートラルという新たな難題に挑んでいます。新宿の地下を巡るエネルギーは、過去から未来へ、確かに歩みを進めているのです。

そしてその未来は、現場のメンバーたちの小さなチャレンジの積み重ねの先にあります。

「DXや省エネの成果が数値やデータとして目に見えていて、それが結果的に世の中のクリーン化につながっていると実感しています。目の前の課題にしっかり向き合いながら、これからも挑戦を続けたいですね」(大澤)

地域冷暖房について詳しくはこちら
東京ガスエンジニアリングソリューションズ

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