2026.07.21

【都市生活研究所40周年】東京ガスの「生活者」研究。暮らしの変化を見つめ続ける

エネルギーのインフラを担う東京ガス。その中に「エネルギー」のことだけでなく、「住まい」や「家事」の意識、「食生活」や「入浴」の行動変化など、生活者の暮らしを細部に至るまで研究し続けている組織があります。

都市生活研究所は、1986年の設立以来、生活者の意識や行動から暮らしの変化を追い続けてきました。40年にわたる研究から何が見えてきたのか。本記事では、同研究所の所長・三神に、その歩みと暮らしの変化を見つめ続ける理由を聞きました。

なぜ、エネルギーの会社が生活者を観測するのか?

SNSで話題の「風呂キャンセル界隈」。入浴をスキップする人が増えているという話ですが、実は調査データで見ると、若者の「お風呂に入りたい」という気持ちと、「面倒だ」という気持ちが揺れ動いている様子がわかります。

例えば、実際の調査でも、10代女性で「お風呂が好き」「お湯に入ることは面倒だ」という一見矛盾する回答が、それぞれ6割を超えています。

こうした生活者の意識や行動の変化を見つめ続けているのが、東京ガスの都市生活研究所です。日本人の暮らしを40年にわたって研究してきました。

都市生活研究所は、東京ガスが創業100周年を迎えた1986年に設立されました。背景にあったのは、「良い暮らしを通じて、良い世の中をつくる」という東京ガスの原点です。

都市生活研究所 所長 三神

「エネルギーは暮らしの中で使われるもの。届ける側が暮らしそのものを理解していなければ、本当に必要とされるサービスは届けられません。エネルギーの先にある暮らしを知ることが、東京ガスの次の100年を支える基盤になる。そんな発想が、都市生活研究所の出発点です」(三神)

設立当初は「食と住に関わる暮らしのシンクタンク」として、暮らしの変化を見逃さず、ガスを上手に使っていただくための提案が中心でしたが、時代とともにその役割は広がっていきました。

現在では、電気やガスの上手な使い方にとどまらず、暮らし全体をより良くする提案や、無理なくできる省エネのコツや環境に配慮した食生活(エコ・クッキング)の普及活動にも力を入れています。

約40年の定点観測が描き出す、生活者の暮らしの“線”

では、その客観的なデータはどのようにして集められているのでしょうか。その活動の根幹を支えているのが、「生活定点観測調査」です。

1990年の開始以来、3年ごとに約780問の同一質問を繰り返し、生活者の意識や行動の変化を追い続けてきました。調理にかける時間、入浴の仕方、家事や育児の考え方、住宅の実態、仕事と余暇への意識など、暮らしに関わる幅広いテーマを網羅する調査です。

「アンケート調査で捉えられるのは、その時代の“点”です。しかし、同じ問いを何十年も繰り返すことで、点がつながり、1本の“線”になっていきます。過去に遡って、当時の生活者が何を考え、どう暮らしていたかを聞くことはできません。だからこそ、1990年から積み重ねてきた生活定点観測調査は、非常に貴重な資産になっているのです」(三神)

こうしてデータを“線”でつなげて見るからこそ、生活者の意識や行動の変化の兆しを感じ取ることができます。例えば、冒頭で触れた入浴習慣。1990年から繰り返し同じ質問をしているからこそ、「お風呂は毎日入るもの」という生活者の価値観が当初から当たり前だったのではなく、少しずつ変化して定着したことに気づけるのです。

さらに、都市生活研究所は定点観測調査から読み取った変化の兆しを踏まえて、新たな調査・分析を実施。さまざまなテーマでレポートを発行しています。『現代人の入浴事情2026』では、「シャワー派が30代以上でも増加」「10代女性の3割以上が入浴中にスマートフォンを使っている」などの分析を発表しています。

「シャワー入浴派の増加には、単身世帯の増加や住宅の断熱性向上といった世帯構造や住環境の変化が関わっています。自分だけのために浴槽にお湯を張る手間や時間・コストを省いたり、部屋が暖かいので『しっかり温まる必要性』を感じない人が増えていると考えられます。一方で、10代ではスマートフォンを持ち込んでの入浴を『自分のための時間』として楽しむ層がいるなど、入浴に求める価値は多様化しています。日本人の根強い『お風呂好き』という特性は変わらないものの、その目的が『汚れを落とす』『温まる』だけでなく『リラックス』や『娯楽・趣味』など多様化していることが、データの変化から読み取れます」(三神)

人の意識や行動は、一気に変わることはなく、少しずつ変わっていくものです。東日本大震災やコロナ禍のように、社会を揺るがす大きな出来事があると、直接その事象の影響を受ける面では生活者の関心や行動が一気に動くこともあります。しかしたいていの場合、変化が急激に表れるものは少なく、ほとんど変化しない、変化するとしてもゆるやかに、少しずつこれまでと同じ方向へ動き続けるものが多いことがわかっています。

「その変化が一時的なものなのか、暮らしに定着していくものなのかは、短い期間の調査だけでは見極められません。ある時点の数字だけを見れば『今はそういう時代だ』で終わってしまうかもしれませんが、線で追うことで、暮らしの変化がどのように生まれ、どのように広がっていくのかが見えてくるのです」(三神)

データで、一人ひとりの「心地良い暮らし」を支える

都市生活研究所が行っているのは、データの収集だけではありません。生活者一人ひとりの暮らしに寄り添い、その変化を「知恵」として還元することも、重要な役割です。

その成果は、生活者への具体的な情報発信に表れています。省エネ行動の効果を実験で確かめ、節約金額やCO2削減量として可視化した「ウルトラ省エネブック」や「エコ・クッキング」の普及活動は、その代表例です。

「例えば、調理をするときに鍋に蓋をすると約11%のエネルギー削減につながります。『蓋をしたほうが効率は良さそう』という感覚はあっても、実際にどれくらい効果があるのかは測ってみなければわかりません。感覚ではなくデータに基づいた知見を、生活者の心に響く言葉で届けることも、私たちの役割です」(三神)

三神自身、このエコ・クッキングの研究に取り組み、博士号を取得しています。そんな彼女の専門性と、暮らしをより良くしたいというひたむきな想いから生まれた知見は、社会的な広がりも見せています。

環境省の実証事業からスタートした「サステナッジ教育(省エネ教育)」は、子どもへの授業を通じて家庭のCO2排出量を削減する取り組みとして、多くの自治体や学校との連携へと発展しています。

このプログラムでは、子どもたちが学校で省エネ教育を受け、学んだことを家で実践することで、家庭のCO2排出量を約5%削減する効果が実証されており、教育が実際の行動変容を促すことを示しています。

さらに、こうした個々の生活者の変化を捉える姿勢は、東京ガスの事業戦略においても重要な羅針盤になっています。

東京ガスは、電気やガスをはじめとするエネルギーインフラを届ける企業でありながら、「生活者一人ひとりの暮らし」を研究し続けてきました。それは、インフラの先にあるのは一人ひとりの暮らしであり、東京ガスが提供する価値もまた「良い暮らし」につながっているべきだと考えるからです。

都市生活研究所による調査・分析が、新規事業やサービスの礎となるケースもあります。

「例えば、共働き世帯の増加や家事負担軽減へのニーズが高まっていることをデータから捉えてきましたが、これらはハウスクリーニングなど、暮らしに寄り添ったサービスの開発や展開につながってきました。生活者の意識や行動を捉えたデータは、次の提案を考えるための土台になっているのです」(三神)

「自分最適化」の時代へ。暮らしの少し先を照らし続ける

都市生活研究所は今、どのような暮らしの未来を描いているのでしょうか。三神は、これからの生活者の変化を読み解く鍵として「自分最適化」というキーワードを挙げます。

「私たちが発表した生活トレンド予測レポート『自分最適化』では、生活者が自分の持つ資源(時間やお金、体力など)を最大限に活かす『最適化』をすることによって、生活全体のパフォーマンスを上げ、幸福度を高める暮らしのあり方を予測しました。その中で一つの例として、自分にとっての快適さやコスパを追求した結果、それが自然と社会や環境にとっても良いことにつながる、という仕組みが満足度を高めることを紹介しています。無理なく、自分らしく暮らしの質を高めていきたい。そんな生活者の感覚に寄り添った提案が、より重要になっていくと考えられます」(三神)

こうした意識の変化は、エネルギーとの向き合い方にも影響を与えています。

「エネルギーへの意識も、単なる節約や我慢から、より賢く、より快適に使うための知恵へと進化しています。もちろん、エネルギーを使う生活者にとって安定して使えることやコスパが良いことは重要です。その上で、暮らしの選択肢は多様化しています。エネルギーは、画一的に消費するものではなく、一人ひとりがライフスタイルに合わせて最適化するものへと変わっていくはずです」(三神)

40年という歳月をかけて積み上げてきた「暮らしの知」は、これからの社会においてどのような役割を果たすのでしょうか。

「私たちが届ける知恵が、多くの生活者の共感を得て、社会全体の行動変容につながっていく。そんなプラットフォームとしての役割を、これからも果たしていきたいと考えています。私たちは『1人の100歩より100人の1歩』という考え方を大切にしています。多くの生活者が、それぞれの暮らしの中でより良い暮らしに向けた一歩を踏み出すこと。その積み重ねこそが、社会を動かす大きな力になると考えています。研究所として、暮らしのちょっと先を見続け、 皆さんが確かな一歩を踏み出せるよう、 皆さんの足元を照らすような存在であり続けたいですね」(三神)

東京ガス都市生活研究所はこれからも、生活者の暮らしの中にある小さな変化を見つめながら、一人ひとりが自分らしく、心地よく暮らせる未来を照らし続けていきます。

都市生活研究所
1986年に設立され、今年で40周年を迎える東京ガスのシンクタンクです。「生活者をしっかり見続ける」「生活者の視点で考える」ことを軸に、暮らしの研究を続けています。生活者の定点観測に基づいたレポート、さまざまなテーマの調査・分析、情報発信を通じて、東京ガスの次の100年の基盤となる役割を担っています。

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「未来を つむぐ エネルギー」
となる
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