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環境コラム
UPDATE:2006.8.31
写真:菅原広史
菅原  広史
(すがわら ひろふみ)
プロフィール
防衛大学校地球海洋学科講師

博士(理学)、気象予報士。専門は気象学、特に大気環境、大気乱流、リモートセンシング。田舎から東京に初めて出てきたとき、電車の窓から見えるビルの壁に重圧を感じ、子供ながらに怖くなった記憶があります。首都圏に住んで10年以上になる今でも、時々そんな気持ちになることがあります。気象学的な見地から住みやすい街の形を探っていきたいと思っています。
公園が街を冷やす
  日中に街を歩いていて、街路樹の木陰に入ったときほっとしたことはありませんか?公園などで実際に気温を測ってみると、ビル街よりも2〜4℃程度低温になっています。公園などの緑地が都市の中で低温になる現象は、(ヒートアイランド現象に対して)クールアイランド現象と呼ばれています。
  公園緑地で発生した冷気で都市を冷やすことができれば、寝苦しい熱帯夜も解消するのではないでしょうか?ここ数年私達が新宿御苑で行った観測の結果を元に、公園(緑地)からビル街へ流れ出る冷たい風(冷気のにじみ出し現象)について紹介しましょう。
1)公園は涼しい
  図1は赤外画像で見た表面温度で、赤い方が高温を意味しています。画像中央にある低温の所が新宿御苑です。御苑はビル街よりも2℃程度低温であることがわかります。
航空写真

赤外線写真
図1 赤外画像で見た新宿の町並みと新宿御苑
1999年7月29日午後1時
  表面温度ではなく、気温で見ても御苑は低温です。図2は御苑を南北に横切る方向の気温分布です。ここで注目すべき点は、御苑の外側(図の灰色の部分)にまで冷気が及んでいることです。6年間にわたり調査した結果、この冷気は風のあるときならば250m、風の無い静穏な夜間でも90mほど流れ出していることがわかりました。これが冷気のにじみ出し現象と呼ばれているものです。 まさに、公園は街を冷やしているのです。なお、図の左端も低温になっているのは、明治神宮の森からの冷気の影響で、この新宿区と渋谷区にまたがるエリアには大きな公園緑地が複数あり、緑の回廊として、東京の夏の暑さを和らげてくれていると考えられます。
2)冷気のにじみ出し現象
  では、この冷気はどれくらいの厚さがあるものなのでしょうか? 冷気が溜まりやすい真夜中に、温度計をつけた気球で調べたところ、御苑の真ん中では30m程度でした。これはちょうど御苑周辺の北側にあるビル街(およそ10階)とほぼ同じ高さです。これだけの莫大な量の冷たい空気ですから、市街地に流れ出しても相当厚みがあります。 図3は気温の高さ方向の分布を市街地で測ったものです。図の左側が御苑になります。10m以上の高さは測定が難しいために測定点が少なく、上の方は多少不正確なのですが、少なくとも冷気は10m程度の厚さを持って市街地へ流れ出していることがわかります。測定を行った際にはこの涼しい空気を肌で感じることができ、「あっ,ここから御苑側が涼しい」とはっきり分かったほど気温差がありました。
新宿御苑を南北に横切る方向の気温分布
図2 新宿御苑を南北に横切る方向の気温分布
2000年8月5日深夜

3)公園が涼しい理由
  このような冷気のにじみ出しは御苑だけで起きているわけではありません。日本国内もそうですが世界中で同じような研究結果が発表されています。私たちも御苑のすぐ北にある小さな公園で調査をしたところ、御苑ほどではありませんが、やはり低温になっていました。
  このような冷気ができる理由は昼と夜で少し違います。昼は人間が汗をかくのと同じで、植物が蒸散を行うため大気をあまり加熱しません。一方コンクリートやアスファルトで囲まれたビル街では、そもそも水がないので蒸発が起きず、その分高温になります。夜に公園が涼しいのは、日中の蓄熱が少ないのに加えて、空に対して開けているため放射冷却で冷えやすいからです。ビル街から空を見上げても、空は少ししか見えません。このために放射冷却が起きにくく、暑い状態が真夜中も続くわけです。


新宿御苑から流れ出た冷気の鉛直断面図
図3 新宿御苑から流れ出た冷気の鉛直断面図。図中、色のついた線は等温線
2005年7月19日深夜
4)永く住める街にするために
  近くに公園などの緑地があるお宅であれば、夜に少し窓を開けて涼しい空気が流れているかどうか探してみてはどうでしょうか?ただし、窓は2箇所以上開けないと外の空気は部屋には入ってきません(空気の入り口と出口の両方が必要)。もちろん、天候や特に風向にも依存しますので、簡単には見つからないかもしれません。見つからなかった時、家の近くには公園がない場合は緑のカーテン[link to 環境コラム2005年4月、菊本]など、手軽で効果のある緑化方法があるので、こちらを試して見てください。 緑には気温や体感温度を下げる以外にも、大気汚染物質を空気中から除去したり、人間の心を和ませるなど色々な働きがあります。皆さんの街が、これからもずっと住み続けられる住みよい街であるように、今ある緑を大切にしていただけたらと思います。
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